Little AngelPretty devil
           〜ルイヒル年の差パラレル

      “意外性の…?”
 


まだ五月だというに、
25度以上の“夏日”どころか、
30度を越す“真夏日”までお目見えしてしまい。
同じ月の頭に
それもまた五月には珍し過ぎる
降雪や遅霜がお目見えしたことを思えば、
どれほど乱高下が凄まじかったかも知れるのだが、

 “それどころか、
  まだ五月だってのに“梅雨入り”かなんて言われてっしな。”

木陰に逃げ込めば何とか涼しい…と言っていたものが、
何だか蒸し暑くないかという声が出始め。
いやいや朝晩はまだ肌寒いからと、
綿入りの合い布団だけは仕舞えないでいたならば、
それだと寝苦しい晩も早々とやって来ているようであり。
実は寒さにだけは微妙に弱い子悪魔様、
どうしてだか父上もそこだけは把握しておいでで、

 『いかんいかん。
  そんな薄い夏用布団だけだなんて、
  万が一にも明け方冷えたらどうするか。』

 『だ〜か〜ら。
  暑苦しくて布団蹴ってたら、結局一緒だろうがよ

毎晩のように
“掛け布団戦争”なるものを繰り返しておいでのここ数日だとか。

 ちょっと想像してみて下さい。

金髪で金茶の双眸をし、色白で細おもてなところや。
端正なお顔や、そこへ浮かぶ表情がやや鋭利なタイプであること。
どちらかといや痩躯な肢体にようよう映える、
切れのいい機敏さが印象的な。
二人揃って 日本人離れしたスタイリッシュな風貌と、
油断のならぬ体さばきもこなせる冴えとを持ち合わす、
縮尺の大小に差があるだけな、
そこもお揃い、たいそう美人さんの父と子が、

 『いいからお父さんの言うことを聞きなさいっ
 『暑いからヤダって言ってんじゃんかっ!』

布団を掛けたりはぐったり、
小半時は押し問答を繰り返しているすったもんだを
毎晩のように繰り返している様を。

 『もうもう、どこの保育園のお昼寝風景かしらねぇ♪』

お母様曰く、
寝てしまってから こそりと掛けに行きゃあいいことだのに。
妖一くんの方にしたって、
掛けて寝る振りをして、やっと寝たかと思わせといて
後でこっそり薄いのを掛け直しゃあよかろうにね。
我を通してのこと、
相手を言いくるめたいとする頑迷さは似たり寄ったりで。
ああ親子だなぁと苦笑をしつつ、
今のところは傍観者でいらっさるとか。
そんな攻防戦を挟んでいるお陰様、
微妙に寝いるタイミングがズレるのか、
何だか寝坊気味になりつつもある
蛭魔さんチの妖一坊ちゃんだったのだけれども。

 「……?」

いつもなら途中の辻で待ち合わせ、そこから一緒に登校するお友達。
今日は日直だから早く出るのと訊いていたので、
姿がないからと待つこともせずの、
学校までをたったかと一人で向かうことにしたものの、

 「…で、だったから。」
 「あ、ヒル魔くんだっ。」

学校へと近づくにつれ、
あちこちからの道が合流してのこと、
学童の数が増えるせいで、
話し声やら喚声やらが
折り重なるように交じり合うのはいつものことだが。
そんな中へと歩を進める、
一丁前に七分丈のクロップドパンツに、
ロゴ入りTシャツと薄手のパーカージャケットとを合わせた
お洒落な金髪の小学生くんへ、
固まって何事か囁き合ってた同級の女の子たちが駆け寄ってくる。

 「あのね、大変だよ?」
 「セナくんが、あのね?」

同じ光景、他にも見た子はいるのだが、
相手が居合わせた子らを睨んで、
人に言ったら承知しないぞという種の威嚇をしたらしく。

 「あれって六年の…。」
 「違うって。中学生だよぉ。」
 「そうそう、土手でサッカーとかやってる子たちもいたよ。」

一遍に話そうとしかかり、
それじゃあダメよと今度は一斉に口を噤むので、
何とも要領を得なかったものの、

 「セナがどうかしたんだな。どっち行ったか判る?」

あっちだよと指さす方へ、判ったと頷くと、
詳細は後からついてくるだろと、まずは駆け出す察しのよさよ。
ここんところ久しくそういうことはなかったが、

 “うっかりしてたなぁ。”

それは愛くるしい風貌のセナは、
それだけでも“生意気だ”とやっかまれ兼ねないし、
かてて加えて、
大学生の大きいお兄さんたちと一緒に
ケーブルテレビで頻繁に取材されてもいるものだから、
事情が通じてなかろう
別の学区も混然としている中学生辺りからも
勝手に目障り扱いされかねぬ。
それと、もう1つの事情というか、

 「…っ、てんめぇっ!!」
 「え、わっ、なにしやがんだよっ!」

丁度進行方向にいて、
何が可笑しいやら嘲けるような笑い方をしていたのが
まともに視野に収まったものだからと。
お懐かしやの因縁がある相手、室と三宅の二人が歩いているのへ、
瞬発力を発揮して前へと回り込み、
丁度進行方向へ新緑のたわわな枝先が垂れていた桜の木を、
ばっさと蹴って見せる。
いきなり飛び出して来た影へ、
自分たちへと蹴りが飛んだような気がしたか、
ドキッとしたまま大仰に驚いた、
片やはお痩せ、片やはメタボJr.というデコボココンビだったが。
相手が誰かを見やると、ますますのこと警戒心丸出しで身構えて見せ、

 「なな何だよ、朝っぱらからよっ。」
 「セナチビを連れてったのはお前らの仲間かよ。」

ここいらの中学の夏服は
男女とも、開襟シャツか鹿ノ子のスキッパーかを
選べることになっており。
スキッパーだと一見すると私服に見えるが、
そういや、この室とやら、
もう中学生だったよなと、
今になって思い出した妖一くんだったのだが、

 「なに言ってるか、判んねぇな。」

腫れてんのかと思えるほどむくれた、
いかにも憎たらしいお顔を不貞々々しくも膨らませ、
そっぽを向きかかった彼らであり。だが、

 「へぇえ、そういう態度するのかよ。」

金髪坊やの声が低まったと同時、
周辺に居合わせた小学生や中学生らが、あわわと駆け出し、

 「わっ、室さんっまずいっ!」

要領はいいのが取り柄の三宅の方がギョッとしたが、
時 すでに遅しで。
子悪魔坊やがパーカーの裾から一気に引き抜いた、
風よけにと裾を絞るための紐、鞭のようにしならせての宙を切り、
ひゅんっと一閃させて向かい合う相手へ叩きつければ。

 「わっ、」
 「痛い痛いっ! いたたたたっ!」

実はシリコンラバーの芯が通っている特殊な紐、
一端へ片手を添えての、
皮を一気に剥ぐようにしごいて布の側生地を引きほどき、
ラバー部分を剥き出しにしてから、そぉれっと繰り出されたそれだったので、
ステンレスのうえでも滑りませんという特殊ラバー、
半袖で露出していた肌へ貼りつきながらペシリと打たれた格好になった。
まだまだ子供に近い肌、産毛へくっつく感触は相当に不気味で。
しかもすべって逃げてかなかった分、
打撃の衝撃も大きいままに張り付いたようなもの。
痛たたたっと尻餅ついたほどの上級生とその連れへ、
あらためての仁王立ちになって立ち塞がると、

 「言えよ。セナチビを知らんのか?」
 「あのな、俺らが今更あのチビに手ぇ出すと思うか?」

お前がこうやって出てくんの、イヤってほど知ってんだぞ?と、
何でそういう立場なのを威張るのかは不明だが、

 「ちょっと考えりゃ判るこったろが、馬鹿じゃねぇかお前?」
 「あわわ、室さんっっ!」

どっちが馬鹿だかと、
聞こえておりました 周辺で避難していた皆さんが、
こそり同じことを胸中で呟いたのは言うまでもなく。

 「ほぉお〜〜〜、」

よ〜しよく言った、覚えていた褒美をやろう。
俺は急いでるから手加減はナシだと、言わんばかりの
低い低いお声での“ほぉお”つき。
半ば巻き付くようにふくよかな腕へからんだシリコンラバーの紐の端、
先ほど蹴りつけた桜の幹へ押しピンで留めて、
固定してからじゃあなと駆け去る。

 「何なんだよ、人騒がせな。」

今回はとんだとばっちり、
ぶつぶつ言いつつ、肌へ張り付いた格好の
気持ちの悪い紐をはがしにかかったその先に、
はろうと這って来つつあったのが、

 「な……っ。」
 「ひぃいっ。」

だってそういう季節です、
桜にもたっくさんの、毛並みのいいのが宿ってらしく。
うにむに・にょろにょろ、大きくなったら蛾になる子供ら、
振動で落とされかかった途中から、
宙に張ってたラバーの紐へと足場を移し、
何匹もがよっこらよっこら移動してくるとあって…。

 「なっ、取れ、どけろよ、三宅っ!」
 「ななな、何で俺がっ!」

男の子でも苦手な人は苦手でしょうよね。
ぎゃああと近所迷惑なお声を張り上げる彼らを、
既に思考から蹴り出していた子悪魔様。
この先ってことだろかと、駆け足を速めて進みつつ、
ポケットからスマホを取り出してみたものの、

 「……チッ。」

セナくんの番号からは、
電源を切っておいでか…云々という
お馴染みの合成声案内しか返って来ない。
連れてった相手に取り上げられているのかも知れずで、
そして、そこまで周到な手合いとなると、

 “俺に逆恨みしてる連中かも知れん。”

ちょっかい出して来た連中から、通り道塞いでて邪魔だった連中まで、
ちょいと手荒なあれこれで追い払った覚えは数知れず。
いつも一緒の大学生のお兄さんたちという存在へ、
勝手にビビってしまった奴らまでは面倒見切れぬが、

 “ここいらが根城で、土手でたまってる奴らってぇと。”

セナと遊んでるところや、
二人揃って 葉柱や、若しくは進や桜庭といるところ、
目撃され倒しているのは間違いなく。
やっかまれてのこと、こづき回されていたならば、
まだまだ幼いセナならば、
あっと言う間に怖がっての泣き出しているやも知れぬ。

 “ちっくしょうっ。”

まだ時期が早いもんな、
夏休み辺りン入れば、それとなく噂も聞くだろから
俺らに手ぇ出す馬鹿なんていなくなるんだのにな。
そういう物知らずの向こう見ず野郎へも、
いっそこっちから
デモンストレーションしときゃあよかったんだろか…なぞと。
何だか段々考えがまとまらなくなって来つつあった
子悪魔さんだったのだが、

 「あ、おーいっおーいっ! 蛭魔く〜ん!」

住宅街を抜け、ジョギングコースの取っ掛かり、
川沿いの土手の横っ腹が見えて来たところで、
どこからか聞き覚えのある声がした。
え?え?と頭を巡らせて見回せば、土手のうえで手を振る人影があり、

 「セナちびっ!」
 「こっち、あ、おはよー。」

おいおい、悠長に挨拶してる場合かいと、
唇かみしめ、駆け足に加速を掛けた蛭魔くん。だがだが、

 「……? お前、一人なのか?」
 「いや、うん、あの、そうなるのかな?」

自分のことなのに、小首を傾げて妙に曖昧な言いようをし、
それよりも とおいでおいでの手を大きく振り直す彼であり。

 「???」

何だか様子がおかしい。
泣きそうでもなし、服装にも汚れとかないようだし、
少なくとも無事じゃああるみたいだが、
じゃあそっちからも駆けてくりゃあいいものを、
早く早くと妖一坊やを招くばかりのセナくんで。
何だおいおいと、少しずつ歩調が緩みつつある子悪魔さんだったのへ、

 「あのね、ボク、どうしたらいいのか、判らなくって。」
 「…はい?」

あ、久し振りに、
母ちゃんへもしたことない いいお返事しちゃったぞと、
妙なことへと我に返りつつ、
辿りついた土手へと上がる石段を駆け上がった子悪魔さんが、
その頂上から見たものは。

 「…お前、まさかこれ。」

そちらも新緑と呼んでいいものか、
長さも種類も不揃いなまま、見本市みたくばらばらに
下生えの雑草がいろいろと伸びかかってた砂利交じりの河原にて。
恐らくは女子の同級生たちが見た中学生や六年だろう、
数人の男子がばたばた倒れ込んでおり。

 「ボクから何かしたんじゃないもの。」
 「…みてぇだな。」

応答がなかったはずで、
倒れ込んでる中の一人が、セナのものと思しきスマホを手にしており。
バッテリー切れですという表示が点滅中。

 「これ、無理から取り上げやがったんだな?」
 「うん。」

いわゆる本人認証と、
プラス セナくんのご両親と進と桜庭の指紋と掌紋が登録されていて、
どこをどう掴む格好でも、登録した人物なら問題なく扱えるのだが。
登録されてない存在が無理から奪うような扱いをした場合、
特殊なプログラムが作動し、

 「静電気の雷撃が出たんだな?」
 「うん。」

ビックリしちゃった、
せーでんきの ぱちっと一緒だって聞いてたのに、
あ〜んな火花出たりするなんて、と。
一気に数人がばたばた倒れた威力、目の当たりにしたセナ坊はといや、

 「一回しか出ないんだね?」

もっかい見たいなぁって、パチパチって手ぇ叩いたら、
無事だったお兄さんたち、ひぃええってって逃げてったの。

 「この人たち置いてってもいいのかなって。
  あと充電もしたいけど、
  此処ってどこかなって思って困ってたの。」

電話も掛けれないし、蛭魔くんが来てくれてよかったぁと、
そりゃあ愛らしくも天使のような笑顔を見せるセナくんだったれど。

 ―― 蛭魔ってガキだけじゃない。
    セナってチビも怒らすと怖いぞ、と。

この辺りの中学生らに改めて広まる切っ掛けとなった、
セナくん“電撃殺法”披露するの巻となった、一騒動でございます。




     〜Fine〜  13.05.27.


  *室くんと三宅くんの名前が出て来なくて、
   コミックスを漁りましたがな。(すまぬ)
   そうそう“ムサシ”探しの過程で出て来たんだったよね。
   でも、最終巻まで出てた辺りは、
   なかなか立ってたキャラだったといえるかも?
   (単に、どうしようもないキャラとして
    使い勝手がよかっただけかもですが…。)

  *そして、この騒ぎの主犯格らは、
   蛭魔くんに炙り出されてのち、
   葉柱さんたちに追い回されるか、進さんに睨まれるか、
   どっちにしたって
   表通りをうかうかと通れない身となること
   間違いなかろう憂き目に遭うのであった。(合掌)

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